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最高裁判所第二小法廷 昭和33年(あ)2480号 判決 1961年10月13日

主文

本件上告を棄却する。

理由

被告人の上告趣意第一点について。

所論は原判決の認定しない事実を前提として違憲を主張するものであって、適法な上告理由に当らない。

同第二点および弁護人諌山博の上告趣意について。

労働組合の執行委員会において公然他人の名誉を毀損する行為は、たとえ労働者の団結を強化する目的に出たものであっても、憲法二八条の保障する権利行使に該当しないことは当裁判所の判例(昭和二三年(れ)第一〇四九号同二五年一一月一五日大法廷判決、刑集四巻一一号二二五七頁)の趣旨よりして明らかであり、原判決はなんら論旨引用の判例に相反する判断をしていないから、所論憲法違反および判例違反の主張は、いずれも理由がない。その余の所論は、事実誤認、単なる法令違反の主張であって、すべて刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(かかる行為につき、労働組合法一条二項、刑法三五条の適用がないものであることは、論旨引用の判例の趣旨とするところである。また、多数人の面前において人の名誉を毀損すべき事実を摘示した場合は、その多数人が所論の如く特定しているときであっても、刑法二三〇条の罪を構成するものと解すべきである。大審院昭和三年(れ)第一六八二号同年一二月一三日判決、刑集七巻七六六頁、同昭和六年(れ)第六二八号同年六月一九日判決、刑集一〇巻二八七頁各参照。)

被告人の上告趣意第三点について。

所論は事実誤認、単なる法令違反の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(原審の維持した第一審判決の認定した事実関係の下においては、被告人の判示発言は、その趣旨及び発言の際の経緯に徴し、荒牧田鶴がレジスターとして勤務中その売上金を窃取ないし横領したことを疑わせるに足る事実を摘示したものと認められるから、被告人に対し名誉毀損罪の成立を認めた原審の判断は相当である。)

また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四一四条、三九六条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助)

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